決して自分は大人しい方だとは思わないよ。 きちんとした礼儀のなってる良い子だとも思わない。 ・・・・・・だから、もう限界。 よくここまで我慢できたと自分で自分を褒めてあげたいし。 あなたたち、もういい加減にしなよね? 第八話:宣戦布告・・・ってか、開戦? 二学期が始まってもう随分経った。 吹く風は少しずつ肌寒くなってきて、校庭の木は枯れた葉っぱを少しずつ散らしていく。 16歳の誕生日もこの前終わって、もう結婚できちゃう年齢だなんて早いなぁと思う。 落ち葉がひらりひらりと舞い落ちるのを見ながら、たまにはセンチメンタルな気分に浸ってみたいんだけど・・・、 そんな風に感傷的になってられない出来事がここ数日でかなり目立ってるんだよね・・・。 「・・・・・・・・・・・・またぁ?」 いつもよりも遅くなってしまった登校。 早足で校舎に入って急いで自分の靴箱を開けた私は舌打ちしてげんなりした声を出す。 狭くて大したキャパを持たない靴箱の中は所狭しとこれでもかというほどの土が突っ込まれていた。 とりあえず両手で土をすくって外まで運んで捨てる。 3往復くらいしてようやく上履きを取り出せたけど・・・当然の如く泥だらけ。 軽く泥を払ってみたけど全然落ちない。 こんなことは初めてじゃない、この前は生ゴミだったし、その前はカミソリなんて古典的なものも入ってたし。 キーンコーン・・・・・ 「うっそ!!?」 始業のベルに青ざめた私は、脱いだローファーを小脇に抱え、泥だらけの上履きを引っつかんで、 靴下のまま廊下を駆け出した。 紺色の靴下だから汚れは目立たないんだろうけど、それでも足の裏汚れるのは嫌だし。 無意味だとわかってても、足の裏を庇う為、足先だけでぴょんぴょんと跳ねながら教室を目指した。 「おはよー」 「ギリギリセーフ!って、何その泥の塊?」 一番に声をかけてくれた美奈子は私の上履きを見て思い切り顔をしかめた。 「・・・私の上履き。靴箱の中いっぱいに泥が詰められててさ」 「あらら〜・・・、また派手にやられたねぇ・・・洗ってベランダに干しときなよ」 「うん、そうするよ」 カバンとローファーを自分の机に放り投げて、泥だらけの上履きを廊下の手洗い場に持って行った。 水を流して強めに擦ってみたら少しは汚れは落ちていく。 しばらくゴシゴシとやっていたら、もうホームルームが始まったみたい。 ここは廊下の曲がり角すぐにあるから、D組の会話は直に聞こえてくる。 先生が相変わらず間延びした声で出席を取っていく。 ・・・あ、次は私だ。 「さん・・・おや?さんは今日は欠席か?」 返事はしなくちゃと顔を出そうとしたけど、私の行動は美奈子の陽気な声によって阻止された。 「ちゃんと来てますよ。は廊下でお洗濯中でーす!」 ・・・美奈子め。他人事だと思って。 ・・・だけど、下手な心配をしてもらうより、 ああして、あっけらかんとしててくれる方がよっぽどこっちの気が楽になるから助かるな。 そう思ってふと笑みを浮かべるけど・・・、すぐに推理へ思考を切り替えた。 3回目の今回。同一犯である可能性はぁ・・・・・・こりゃ95%以上だよね・・・。 私がライトと関わることが面白くない子達の仕業。 最近痛い視線を感じて振り向いたら、ライトの周りで見かけるような子達ばかりだもん。 主にA組の。 簡単な話、所謂イジメだよね。 ショックを受けてるとかそんなのは別にないんだけど、やっぱり正直言って気持ちのいいものじゃない。 ・・・何よりの救いは、私のクラスではそんなことは行われていないってことだよね。 D組のみんなは美奈子も含めてとても気のいい人たちばかりだし。 竜崎さんも言ったとおり、時間が解決するのを待つしかないよねと思って放っといてるんだけど。 だんだんエスカレートしてくるのに最近腹が立ってきた。 ・・・そう、最近やたらめったらお腹が空くのは食欲の秋だからじゃなく、怒ってるせいなんだ。 怒るとお腹が空くって言うしね! ・・・あは・・・なぁんて、そんなの関係あるわけないか・・・・・・。 よかった。 こんなどうでもいいこと考えてられるほど、私の思考回路はまだまともに働いてるみたい。 ・・・だけど・・・・・・、 上履きを洗う手をふと止める。 ザーザーと迸り出る冷たい水が、冷静な考えを導き出すのにいくらか手を貸してくれたから。 自分に非はないって言い切れるかなぁ・・・? ・・・結構、自分では気づかないところで誰かを傷つけたり、嫌な思いをさせてたりすることってあるかもしれない。 私にそのつもりはなくても、ライトを慕う子たちを必要以上に傷つけてるのかも。 この前、竜崎さんのホテルに行った時もそうだった。 ―――こういう仕事をやっていると、いろいろあるものですよ――― 恐らく私が余計なことに触れちゃったから、竜崎さんにあんな哀しそうな顔をさせてしまったんだ。 いくら聞いてみたかった事とは言え、もう少しやり方もあっただろうにね。 その後、帰り際に失礼なことをしたならごめんなさい、とは謝ったけど。 ・・・・・・・・・今度は少し頭を使ってみようか。 おさまる気配がないなら、ライトと接触するのちょっと控えてみよう。 彼との接触が無くなったとわかったんなら、こんな嫌がらせもだんだんおさまってくるだろうし。 ほとぼりが冷めたら、またいつもみたいに普通に話せるよね。 あーあ。今度の絵画展、一緒に行きたかったんだけどなぁ・・・。 おおよその考えがまとまったところで、美奈子が曲がり角からひょいっと顔だけ覗かせてきた。 「ちょっと、いつまで洗ってんのよ。 もう1限目の授業始まってるよ?」 「マジで!?」 うっわ、全然気づかなかったよ・・・。 1限は英語だったよね。 とりあえず、目立つ汚れは洗い流せたみたいだからもういいかな。 ・・・真っ白でお気に入りだったんだけど。 「さん、授業はもう始まってますよ?」 「ごめんなさーいっ」 先生に一応謝って教室に入った。 さっきまでの私だったら、これも全部あの子達のせいだ!とたぶんムカついたと思うけど、 冷静に考えもまとまったから、いくらか落ち着いていた。 水気を切った上履きはベランダに干して、ロッカーにしまってある体育館シューズを取り出して足を突っ込んで席に着く。 今日はこれで凌ごうっと。 |