新校舎に駆け込むあの子達を視界に捕らえ、私は走る速度を上げる。
私も校舎に飛び込んでローファーを脱ぎ捨て、
上履きに画鋲が入ってないことを素早く確かめて足を突っ込んだ。
・・・・・・、旧校舎の方へ逃げる気ね!
もうすぐ昼休みは終わりみたいで、廊下は教室で戻るらしい人たちがわらわらといる。
その人たちの波を掻き分けて走るのは結構大変だけど、絶対に逃がさないからね!
「・・・こっちなの?」
あの4人、どこに行くつもりなんだろう。
今の時間、こっちの棟では授業はないみたいでしんと静まり返ってる。
・・・ああそろそろ授業始まってるだろうし、先生に見つかるとマズいかなぁ・・・。
そう思って曲がり角を曲がった。
・・・だけど。
「え!?」
いない!?
たしかに曲がったはずなのに!
その先はほんの5メートルほどしかなくてもう行き止まり。
何で・・・!?
「ホントに追いかけてきた・・・バカね、さん」
すぐ後ろからかけられた声に弾かれるように振り向いた。
いつの間にか4人は私の後ろを取ってた・・・どうして!?
「この階段、影になっててわからなかったでしょ?それでも学年2位なわけ?」
言われてみると、曲がり角のすぐ側に小さな下り階段があった。
ってか、構造上そんなところに階段があるっておかしくない!?ねぇ!?
内心でそんな突っ込みを入れた後でふと気がついた。
・・・・・・しまった、後ろは行き止まり。
私の方が追い詰められてるよ・・・。
4人は勝ち誇ったような笑みを浮かべてじりじりと近づいてくる。
私はそんな彼女達をキッと睨みつけるけど、やはり距離を保たなくちゃと少しずつ後ずさる。
程なくして私の背中がとんっと壁にぶつかった。
「私たちを追い詰めてどうするつもりだったの?」
「っていうかさ、大体、何であんたに追いかけられなくちゃいけないわけ?
ムカつくのはあんたなのに。ライト君にベタベタしちゃってさ。マジでムカついてくる」
一番言葉悪そうな女の子が思い切り私の肩を突き飛ばした。
「っ!!」
私のすぐ後ろは壁だから、背中が壁にぶつかり少しだけ息が詰まった。
だけど彼女達の前で苦しそうな表情なんて見せたくないから、効いてない振りをする。
「クラスも違うくせに、どうやってライト君に取り入ってるのよ?
ああ、学年2位の頭ならそれくらいすぐに考えつけるわけね」
「少し頭がいいくらいでライト君が振り向くわけないじゃない。
何様のつもり?」
私よりも背の低い子が手を伸ばして私の髪の毛を引っ張った。
痛い!!
「放してっ!!」
髪を引っ張ってる彼女の腕を掴んで思い切り突き飛ばした。
彼女につられて一人も後ろによろける。
「何するのよ!?」
「そっちこそ何するのよ!?」
4対1。弱気な態度を見せたら負けだと感じた私は、授業中にも関わらず大声で反論した。
これで誰か気づいてくれたらいいんだけど・・・。
思ったとおり、私の態度に驚いた彼女達は目を見開いて怯んだ。
掴みかかろうとした子なんてもう後ずさってる。
「・・・私にも非はあるんじゃないかって思ってたよ。
気づかずに誰かを傷つけてるんじゃないかって。
だから、ライトと距離を置いてみた。
なのに何?全然おさまる様子もないからいい加減に腹が立ってきてたんだけど」
声量を落としても迫力はそのままに、私は彼女達へ強い視線を向けてそう言った。
少し気の弱そうな子なんてたったこれしきのことでもう圧倒されちゃってるみたい。
「何よ・・・・・・!
ライト君ってばこんな乱暴な女の何がいいって言うのよ!?
何でこんな女ばっかり追ってるの!?」
とうとう逆ギレだわ。
感情に任せて打とうと彼女の振り上げた腕を、私は咄嗟に両手で掴んだ。
「は、放して・・・っ!!」
「く・・・っ!」
「放しなさいよっ!!」
「何さ、たった一人のくせに!!」
もう我を忘れてるほど怒り狂った残りの彼女達はものすごい力で私を引き剥がしにかかった。
マジでヤバいかも・・・どうしよう・・・!!
「見つけた!!お前たち何してるんだ!!」
腕を掴んでた女の子から引き剥がされ、体格のいい子に羽交い絞めにされかけたところで、いきなり大きな声がかけられた。
私の視線真っ直ぐの先にはブレザー姿の男子生徒。
あ・・・、彼、同じD組の・・・・・・、
「晶、何でここが!?ってか、何でここに!?」
「無事だな、!?おーーーーいっっ!!見つけたぞーーっっ!」
彼が外にまで響くような声を上げた。
するとすぐにバタバタバタっと廊下を駆け抜ける足音がいくつも重なって・・・、
「あー!見っけー!!」
「大丈夫か、!!」
何と、次から次へとやってくるのはD組のみんな。
はぁはぁと息を切らせた子、額に汗を浮かべた子。
「み、みんな??え?何で?みんなこんな所で何してるの??」
もう授業始まってるんじゃないの!?
クエスチョンマークだらけの私を見て、やってきたみんなは心底ほっとしたような安堵の表情を浮かべている。
陽気に笑ってる晶に問い詰めようとしたその時。
「ーー!!よかったよかった!大丈夫!?怪我してない!?」
そう言って飛び出してきたのは美奈子だった。
遠慮もなしに飛びついてきた彼女に倒されそうになったけど何とか踏みとどまった。
「美奈子??え?みんなどうしちゃったの??音楽の授業は?」
「先生がいきなりお休みだったの!そしたら、D組にライト君が来てさ」
「『さんがイジメグループを単独で追いかけてる』って言うから、オレらも居ても立ってもいられなくなった。
今、あちこちみんなで探してる」
興奮してる美奈子の言葉を晶が続ける。
ちょっと待って、みんな授業中なのに!?
「あ、噂をすれば何とやら。ライト君!あなたのおかげでは無事だよー!」
美奈子は私に抱きついたまま、くるりと180度回転して私を押し出した。
私の真っ直ぐな視線の先にはまだびしょびしょ頭のライトがいる。
あ、私のセーターを上から着てくれてるね。
・・・だけど、すっごい無表情・・・お、怒ってる・・・?
ライトは何も言わずにつかつかとこちらへやってきた。
私のすぐ脇でいつの間にか泣いちゃってる彼女達の前でぴたりと立ち止まる。
・・・冷たい、冷たい目。
・・・・・・ま、まさか彼女達を引っぱたくつもりじゃあ・・・?
そうだとしたら飛び出して止めなきゃと身構えたけど、
ライトは冷たい視線を一瞥くれただけでもう彼女達の方へは振り向かなかった。
・・・でも、それだけでもう十分な仕打ちだったらしく、彼女達は更に声を上げて泣き出した。
そんな様子に目もくれず、ライトは私の目の前に立つ。
・・・うわ、こんなに背、高かったっけ?
「・・・大丈夫だったか、?」
「う、うん、大丈夫。ああ、ライトがみんなに知らせてくれたんだね。
ありがと、助かったよ」
「・・・・・・本当に・・・ごめん」
さっきよりも辛そうな表情で、ライトは謝った。
あーもう!ライトがこんな表情になる必要なんてないのに!
「だから、何で謝るの?私がムカついたから追いかけただけだし。
それよりも何よりもさ・・・、友達じゃん?
私はこれからもライトと仲良くしたいって思ってるよ。
だから、もう距離を置くのはやめる!」
「・・・そうだね。・・・本当に、ありがとう、」
「よし、上出来です、夜神くん」
そう言ってライトに笑ってみせ、景気付けにばしっと叩いてやった。
そして、美奈子の方。D組のみんなの方へ真っ直ぐ向き直る。
・・・ライトに聞いて、私を探してくれてたみんな。
「みんな、本当にありがと」
やっぱり、D組のみんな大好き。
このクラスで本当によかった!!
「こらお前ら!!授業中にこんな所で何してるんだ!!?」
「「うわぁっ!!ごめんなさーいっ!!」」
やっぱり騒ぎを聞きつけてやってきた先生に、みんな怒鳴られちゃったけど、ね。
ごめんね。でも、本当にありがと、みんな。
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