何一つ変わらなかった。
本当に、何一つ。
第二話:見送り
「・・・・・・・・・、本当に何者なのよキラって・・・」
コンピュータのスクリーンを見つめて唇をあまり動かさずに呟いた。
左手で頬杖をついて、右手でマウスを操作しながら。
セキュリティチェックに引っかからないように、何度もスクランブル送って違法アクセスをごまかすのって結構大変だけど。
慣れたらタイミングは体が覚えてる。
割と甘い日本のセキュリティプログラムが相手ならまだまだ余裕はあるもの。
壁に下げている掛時計をちらっと見やった・・・PM10:45.
明日の予習を済ませて、日本警察庁への侵入を開始したから・・・もう1時間くらい経ってるね。
・・・・・・もう少しで帰ってくるだろうから、そろそろ電源落とそうかなぁ。
Lがキラに対して宣戦布告したあの放送から数日。
この事件が、本当に現実に起こっているんだと知った日から、情報収集のため日本の警察庁をハッキングし続けていた。
ウエディの言った通り、何だか嫌な予感が頭から離れなくてどうしても気になったから。
事件に介入するなんてできないけれど、こうして捜査を把握して自分なりに考えることはできるもの。
ここへの侵入なんて久しぶり。
数年前、まだまだ未熟な技術でそれでも自分なりに編み出してきた技で何度もここにアクセスしていたしね。
今の私、あの頃とは比べ物にならないスピードで侵入できるようになっているみたい。
そりゃ、アメリカのセキュリティにも問題なく入れるようになっているんだから、それくらい当然。
やっぱりウエディのおかげだよね。
このキラ事件の概要はもう大体掴めてきた。
「・・・・・・殺人に必要なのは、相手の顔・・・、
12月8日、9日、刑務所内の犯罪者がきっかり1時間おきに死亡したことから、
キラは死の時間をも操れるとLは確信・・・・・・」
画面をスクロールしながら得た情報を、自分にやっと聞こえるような小さな声で呟いてみる。
呟いてみて改めて、この常識を覆すような事件がますます信じられなくなってくるよもう。
簡単にまとめられた概要のファイルをコピーし、自分のコンピュータに保存していく。
内部のみのネットワーク内では捜査状況が随時更新されているみたい。
・・・情報更新してるのって、どんな人だろ?
こんなに侵入の隙があるようなシステムじゃ今後いろいろと不都合が出てきますよーって声をかけてあげたいよ。
警察内部の端末だから安心してるのかもしれないけど。
「あーーーー・・・・・・・、もう、ぜんっぜんわかんない・・・・・・」
くしゃっと頭に手をやって、チェアにもたれかかって大きく息を吐いた。
わかっているのは、被害者の名前と死因と犯した罪くらい。
キラの目的はいくつか推測できても、肝心の殺しの方法やキラという人物像が全然わからない。
殺人方法の仮説すらちっとも思い浮かばない。
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・死亡推定時刻(資料25に記載)よりキラは学生である可能性あり
・30代以前の若い人物であるという見解。資料72に犯罪心理学者Professor Smithの論説を記載
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一応、捜査状況のファイルにはキラのプロファイルが記載されてるけど・・・、
今までの常識で考えられないこんな事件だし、あんまり当てにならないんじゃないかな・・・。
・・・・・・竜崎さんは、どう対処していくんだろう?
お前がどんな手段で殺人を行っているのかとても興味がある
しかし、そんな事はお前を捕まえればわかることだ
あの放送で、おそらくそれを見ていただろうキラに向かって彼はそう言い放った。
Lが手がけた事件で迷宮入りになったものなんてない。
この事件も・・・、きっと解決するんだろうとは思うんだけど・・・、一体どうするんだろう。
何を手がかりに捕まえるつもりなんだろう。
「・・・・・・駄目、頭がこんがらがってきた」
唇を尖らせて、データを保存しログアウトの準備を淡々とすすめていく。
今日はここまでだ。そろそろ時間だし。
・・・・・・私にはまだ情報が足りない。
もうしばらくは、捜査状況が更新されるのを待つしかないよね・・・。
日本に居たら、もう少し詳しい情報を集められると思うのに。
アメリカと日本、意外と近いのかもって思ってたけどやっぱり離れてる国なんだなぁ・・・・・・、
「日本・・・・・・」
電源を落とすための終了アイコンにマウスを合わせてクリックする。
処理が済んだコンピュータは一度だけ軽く画面を瞬かせた後、休止してしまった。
・・・・・・はっきりした確証なんてないけれど。
彼は・・・もしかしたら日本に、居るのかもしれない。
今までならともかくこんな前代未聞の事件、国外から指示を出すなんて・・・、
・・・・・・・・・そんな頼りないようなこと、するのかな?
キラは日本の関東にいるって断定できたんだから、自ら足を運んだ方がいいに決まってるでしょ?
いくらネット等、通信手段が発達してるって言っても私のように国外から情報をかき集めたって、限界があるはず。
でも、私なんかと違ってあの人ならそれくらいやってのけるって考えられないこともないけど・・・、
まぁ、本部での会議にLがアクセスするのなら、その痕跡を追えば彼が何処にいるのかはわかるはず。
勿論、あの人が痕跡を残すような馬鹿な真似はしないってわかってるけど、
そこにアクセスしてるんだってわかったら、何かに擬装してるだろうIPを見つければいいんだから、何とかなるかも。
もう少し自分なりに考えて事件の輪郭が見えてきて、
そして彼の居場所を・・・せめて何処の国に居るのか把握できたら・・・、
連絡を、とってみよう。
こんな時期に不謹慎かもしれないけど、Lの追う事件をやっと知ることができたから。
あの人の動向を掴み、もしかしたら見つけられるかもしれない絶好のチャンスだろうから。
本当にしばらくぶりで私のことなんて忘れてしまってるかもしれないけど・・・、
・・・何を話したらいいのかわからないけど・・・、とにかく連絡を。
・・・・・・どういう反応をするんだろう。
私は、逢いたい・・・けど、あの人は、どう思ってるんだろう・・・、
・・・・・・ひょっとして、迷惑なこと?
「・・・・・・考えるのは後だよ、」
目を伏せ、頭を軽く振って自分にそう言い聞かせる。
今からいろいろ考えたって仕方ない。
その時が来て・・・、その時に言えることを言えばいい。
その為に、今、こうして勉強を続けてるんだから。
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