それぞれ互いのものをオーダーして、5分もしないうちに目の前に温かい紅茶が並んだ。



テーブルについても愛情のオーラ全開のレイに付きまとわれるナオミさん。



・・・・・・、私としては本当に複雑なんだけど・・・、とりあえず、ナオミさんには同情しちゃう・・・かな?

「お茶一杯だけ付き合うからこの手を放しなさい」と凄んだところで、

やっとナオミさんはレイから解放してもらえたみたい。





だけど。

・・・・・・私がナオミさんの立場だったら、放してもらったら一目散に逃げると思うんだけど・・・、



この人ってば律儀にちゃんと待ってた。

そして今、眉間に皺が寄ってるけど出された紅茶に黙って口をつけている。

レイは勿論・・・何か彼女もよくわからないなぁ・・・・・・。




言葉を理解できたくらいじゃわからないことって・・・・・・まだあったんだね。




私は目の前に出されたアッサム、温めてもらったミルクを注いでミルクティにして。

程よくホクホクのスィートポテトにさくっとフォークを刺す。



黙ってケーキを口に運び、目の前の会話を傍観して・・・そろそろ10分が経つ頃かなぁ・・・。



・・・・・・さっきから主に、レイの一方的な押しがナオミさんの怒りを買ってる会話。




お父さんとお母さんみたく、いい年した新婚バカップルの会話もなかなか疲れるけど・・・、

これもなかなか気力を削がれる状況だわ・・・。




「お願い、もう私に構わないで頂戴!

私、もう好きな人いるんだから!!」


「僕以外に有り得ない!どこのどいつなんだよナオミ!?」




・・・あの・・・・・・、


・・・僕以外に・・・・・・って?




どこからそんな根拠のない自信が出てくるのよレイ・・・。





・・・ホント、頭抱えたくなるような会話。

話に割り込むなんて自殺行為もできないけど・・・・・・、












もしかしたら私もいること、きっと忘れられてる?







・・・あれ?

っていうか・・・・・・・・・私、何でこんな修羅場にいるんだったっけ・・・?




そんな、事の成り行きすらどこかにトンでしまうような状況だったの・・・。

あまりな会話の内容に顔が引きつり、それでも気合でティーカップを持ち上げて紅茶をぐいっと流し込んだ。








だけど、次のナオミさんの言葉は。








「L!!聞いたことあるでしょ!?」







ぶふーーーーーーーーっっっ!!!








「ゲホッ・・・・!!な、何・・・っ!?い、いま何て・・・??」




口に含んでた紅茶を思いっきり吹き出した。

どうにかテーブル上に吹き出すのは避けられたけど、変なところに入ってしまってゲホゲホと咳き込む。

慌ててナプキンを手にして口許を覆うけど。

でもレイとナオミさんはそんな私を気にすることなく口論を続けている。



・・・・・・お願い店員さん、そんな離れたところで何事かと傍観してないで止めて・・・!!




「何だよLって・・・L・・・?・・・まさかあの!?」




思いつく節でもあるのか、レイは目を見開いた。

ナオミさんは興奮しすぎたのか顔を赤くしながら言葉を続ける。



「この夏、ロスで一緒に仕事したのが彼よ!パソコン越しの声に従っての捜査だったけどね!

落ち着いた声に的確な推理で、あなたと違って素敵な男性だと思ったわ!」



もう冷めたんじゃないかと思うティーカップに口をつけ、一気に飲み干した。




「はい、お茶一杯終了!帰るわ!」




バッグを引っつかみ、大股で出て行ってしまった。

・・・・・・そんな後ろ姿すら凛として素敵だなとか思うなんて、今の私、きっと思考が正しく機能していない。



さっきまでの騒ぎが嘘のような静寂。

お店の人たちは不思議そうな視線をこちらに向けているけれど・・・、

私たち二人ともその視線に応えることなんてできるわけがない。



ナプキンで口許を押さえて、まだ軽く咳き込む。

・・・レイは身動き一つしない。




「あ、あの・・・レイ・・・?」


「あ、ああ、ごめん・・・・・・」



・・・・・・うわ、レイの放心状態って初めて見た・・・。

やっと息が落ち着いたところで、彼の顔色を窺うようにして・・・恐る恐る聞いてみた。




「あの・・・・・・L、って?」


「ああ・・・・・・、極秘の存在なんだ。顔も見たことはない。

FBIやCIAはよく仕事の依頼をしているらしいんだ」


「へ、へぇ・・・・・・」




いや・・・ごめんなさいレイ、それは知ってます。

それどころか私・・・その人の顔も知ってます・・・。



極秘の存在が、こんな女子高生に知られてるなんて・・・あってはいけないことよね、本当なら。




「僕はまだ彼の捜査には参加したことはないが・・・、

ナオミがLの捜査にあたってたなんて・・・・・・知らなかったな・・・」




深い考え事でもしてるような顔で、ぼんやりと呟くようにそう言った。



・・・・・・ショ、ショックでも・・・受けてるの・・・かな?






























放心状態でもレイはちゃんと私を送り届けてくれた。

いつも通り笑ってくれたレイに、私も笑顔で手を振り返して自分の部屋へ戻る。






ドアにちゃんと鍵をかけて、ソファに倒れこんだ。




・・・・・・・・・・・・えっと・・・、よーく考えてみようか、







私は・・・・・・レイが好き。

レイは、ナオミさんが好き。

ナオミさんは、L・・・つまり、竜崎さんが好き・・・?





どういう相関図なのよコレ・・・。

三角関係ならぬ、直線関係だわ。




ややこしくなってきたのに頭をぐしゃぐしゃと掻きむしり、溜め息をついた。

レイが好きなナオミさんが好きなのは竜崎さんだなんて。




・・・竜崎さんは・・・・・・、、、






そう思って、はっとした。







・・・・・・竜崎さんは?













私を・・・・・・どう思ってた?





一瞬、ふっと思考が止まった。

だけどすぐに、L・・・竜崎さんに関してのそんなに多くもない情報が頭の中にいくつか浮かぶ。





・・・・・・1年前・・・、あの時の軽い口づけを思い出してしまった。





特に思うことはなかったはず。

それよりも、私に黙って行ってしまったことの方がずっとショックで。






あの口づけは、・・・・・・そういう意味だったの?




「・・・・・・・・・・いや、まさかね・・・」




ぽろっと零れた言葉。


有り得ないよ、ねぇそうでしょ、だってそんな。


ソファの上で寝返りを打つ。

横倒しになってる自分の部屋は何だか少し奇妙な感じで。




でも・・・、もし、そうだとしたら・・・・・・、私は?





ピンポーーン





「・・・・・・・・・え?・・・あ」




インターホンの音に気づくのに少しかかってしまった。


一つだけ息をついて有り得ない考えを頭から振り払う。

毛のスリッパに足を突っ込んで、ドア口まで小走りにぱたぱたとかける。




「どちら様?」




こんな時間に・・・レイかな?

でも彼なら一声かけると思うんだけど。




「・・・ここでは名乗れないんだけど」




・・・・・・何?


女の人の声だけど・・・。

私が唯一知ってる女の人はナオミさんだけだし・・・・・・誰、この人?



警戒モードをマックスにして、冷静な声でドアの向こうへ声をかける。




「・・・どういったご用件で?」






「あなたが引き出した情報について」







!?


気づかれた!?


どうして!?私のハッキング、バレてしまうわけが・・・・・・!!




背中から血の気が引いていくようだった。



「Hello?開けてくださるかしら?」




少し掠れたハスキーボイス。


・・・・・・拒否権なんて、私にはない。


















(ちょこっと追記)


ナオミさんはLに淡い気持ちを抱いてたのかもしれません。
だって、2巻のあの顔。
「Lなら信じられる」って言ったあの顔。
めっちゃ恋する乙女みたいな顔だと思いませんでしたか?
だけど、顔も名前も知らない人だから恋という気持ちじゃなかったと思いますけど。
たぶん、第一章時、まだ竜崎と顔を合わせていないヒロインと同じ気持ちだったかと。