数分後、エルの書斎で噂の二人が屋敷の主と対面した。

エルは大きなマホガニーのデスクにつき、竜崎はエルの側に小さく背中を丸めて立ち、二人を出迎えた。



「お待たせしました、エル、竜崎。

この子達です」



二人を連れて入ってきたワタリが、少しだけ尻込みしている少年たちの背中を優しく押し出してやる。



「ありがとう、ワタリ。下がってくれ」


「はい、お茶をお持ちしましょう」



一礼してワタリは部屋を後にした。



向かい合ったのは真っ直ぐな金髪を肩口まで伸ばしている黒服の少年と、

まるでエルのように癖の入ったプラチナブロンドの髪をいじっている白服の少年。

二人とも、竜崎とそう変わらない年頃の風貌。


今までずっと暮らしてきた施設から、

いきなりこのような古めかしく広い屋敷に連れて来られて二人とも緊張しているのか、表情は硬い。



「二人ともよく来たね。Lを名乗っているのは私だ。

ここではエルと呼んでくれて構わない」



エルが親しげに話しかけると、二人はほんの少し視線を泳がせてゆっくりと口を開いた。



「・・・・・・二アです」



プラチナブロンドの少年は、ワタリが用意した椅子に片膝を立てて座りそう答えた。



「・・・メロ」



金髪の少年は椅子にかけず、腕を組んでそう答えた。




「こっちは竜崎。

私の義弟だが、一緒にLを名乗っている。

ああ、彼も君たちがいたワイミーズハウスの出身だ」


「・・・・・・初めまして、メロ、二ア」



エルの隣にいた竜崎がゆっくりとそう告げた。

人当たりがよく社交的なエルと違い、

あまり他人と触れ合うことのない竜崎にとって、同じ年頃の少年と話すのはいくらか緊張するものらしい。



「そして・・・・・・、」



エルは言葉を止め、一瞬だけ二人から視線を外して口許に微かな笑みを浮かべた。



竜崎、メロ、二アは彼の表情の変化にきょとんとする。

エルはにこりと三人の少年に微笑みながら長い指を立てて口許に持っていった。



ゆっくりと立ち上がるエル。

音もなく空気も動かさず、まるで部屋の中を滑るように彼は移動する。



三人がエルの仕草に疑問を感じているうちに、彼はバルコニーへのガラス戸をいきなり開け放った。




「きゃあぁあぁっっっ!?」




間もなく部屋に響いた高い悲鳴。

メロと二アはほんの少しだけ目を見張ったが、

こんな騒がしいことにはもう慣れている竜崎は顔をしかめて溜め息をついた。




「レディが盗み聞きとは感心できないな、ちゃん。

あとで呼ぶってちゃんと言ったのに、待てなかったのかい?」


「バレてた!?さ、さっすがエルさん・・・!!」




悲鳴を上げた当人はいきなり開いた窓に驚き、バルコニーにぺたんと尻餅をついていた。

彼女は口を大きく開けて驚きのあまり空笑いしながら、楽しそうに自分を見下ろしているエルへそう言う。




「ほら、入っておいで」




エルに手を引かれて立ち上がり室内に入ってきたのは、着ている薄手の黒のトップスを少しだけ汚した

その部屋のバルコニーに降りるために、上のゲストルームから外壁をつたってきたらしい。


・・・本当にこれであの名家家を継ぐはずのお嬢様なのか。




「全く、本当にどうしようもない人ですね・・・」


「うるさいなぁ竜崎」




いつものこととはいえ、毎度毎度彼女に突っ込まずにいられない几帳面な竜崎。

はぽんぽんと汚れを叩き落しながら小声でぼやいた彼へ口を尖らせる。



「・・・・・・・・・・・・」



いきなり騒がしく入ってきたのは訳のわからない少女。

メロと二アは身動き一つもせずに彼らをじっと見据えていた。


無言の視線に気づいたエルが、室内にエスコートした彼女をそのまま二人の方へいざなってやる。




「驚かせてすまない。彼女は嬢。

ここから遠くないところにある、この辺りでは有名なパレスの令嬢だ。

昔からの馴染みでよく来てくれるから、二人ともお見知りおきを」


「ハーイ、よろしくね!」


「・・・・・・・・・・・・」




紹介されたは満面の笑みで彼らに声をかけ、手を振ってみせた。

だが、メロと二アの表情はちっとも変わらない。


二人そろって黙っていたが・・・、やがてメロがうんざりしたように溜め息をつきようやく口を開いた。




「こんな騒がしい女と話すことなんてない」


「・・・・・・・・・は?」


「私たちはLに用があるんです。あなたのような煩い人と付き合っている暇はありません」


「な・・・、何ですってぇぇぇ!?」




メロに続き、淡々とした口調で二アも口を開いた。

は一瞬ぽかんとしてみせたが二人の失礼な真意を知って笑顔を取り払い、顔を歪めてまた大声で叫ぶ。


勢いでエルのデスクをばんっと叩くと、生けられていた花がはらりと黄色い花粉を零した。




・・・!こんなところで暴れないでくださいっ・・・!

って、拳振り上げて何する気なんですか・・・・・・っ!!」




怒り出したは大股で二人の方へ近づこうとしたが、側にいた竜崎に腕を引っ張られてしまった。

彼女はそれを振り解こうとするが、竜崎が精一杯の力で押さえ込んでいるためその場から動けない。




まるで、先ほどとは正反対の展開。





「ちょっと放して竜崎!!この二人、この生意気な口、一回シメてやんなきゃ気がすまない!!」


「何、乱暴なこと言ってるんですか!兎に角落ち着いてください!」


「っもうっっ!!この馬鹿力!!か弱い女の子に何すんのよ放してぇぇっ!!」


「か弱い・・・って、す、すみません兄さん、失礼します・・・っ!」


「放しなさい竜崎ぃぃ!!そ、そこの二人、覚えてろーーーー!!」




竜崎が渾身の力で、騒ぐ彼女を部屋から引っ張り出した。

部屋の外でもまだ騒いでるらしくドアを閉めても彼女の声は途絶えない。



大声で自分たちへ怒鳴る彼女を見ても大して表情も変えなかった二人は、出て行く竜崎とを視線だけで見送っていた。




「・・・・・・煩い人ですね」


「世界の探偵の側に居ていい人間じゃないよな」




二人とも似たような冷めた目。

年の割に大人びていて、他の子供とは一線を画しているような雰囲気。


しかしそうでもなければ、きっとエルが目を留めるような優秀な子供ではなかったかもしれないが。




けれど。




「・・・メロ、ニア。そういう言葉はよくない。

ちゃんは敬愛すべき素敵な女性だ。

それがわからないようじゃ、君たちもまだ子供だな。竜崎とちっとも変わらない」




今の騒ぎを傍観していたエルがやっと口を開く。

静かにはっきりとそう言われ、二人は思わず息を呑んだ。





「・・・・・・・・・・・・」





二人はそろってもう一度、さっきの少女を頭の中で思い描いてみる。

服を汚しつつも壁をつたって降りてきて、構わずに大声を上げたり拳を振り上げたりするようなあの少女。






・・・・・・あれが、素敵な女性?あれが?






しかしエルは冗談の影などない至って真面目な顔なのだから、二人は反論も何もできない。



「それがわかるくらいの大人になれれば、Lの仕事を継げるほどの力もつくだろうな」



しなやかな手つきでデスクの上の資料をまとめながらエルはそう言った。

突っ立ったままのメロも髪をいじったままの二アも黙ってエルの作業を目で追いながら、彼の言葉を考える。



「・・・・・・それって、関係あるのか?」



やっと口を開いたメロは隣の二アに小声で訊ねてみるが、二アも答えられるわけがなかった。




「それぞれに部屋を用意したから、今日はゆっくりしてくれ。

明日からいろいろと教えるからそのつもりでいるように」


「・・・・・・はい」


「わかり、ました・・・」




まだ心から納得はできていなかったが、ずっと話に聞いていて二人が密かに憧れた世界的な探偵Lの言葉なので、

賢い二人はとりあえずこの場は納得することにした。




「さぁ、ワタリがお茶を持ってきてくれるからメロも座ってくれ。

今までの事件の資料がこれだ。見るかい?」




エルが出してきた資料に二人は手を伸ばし、食い入るように目を通し始めた。











やってきた少年、メロと二ア。

あまり良い初対面とは言えなかったの格好のターゲットとなるのか。



穏やかな初夏の昼下がり。


先ほどの騒ぎが嘘のような束の間の静けさ。




これからどんな日々が始まるのか、まだ誰にもわからない。




















微妙に補足。



えと、少しだけ私的設定を。
何かウザいのでスルーしてくださって結構でございます・・・!



エルは、このでかいお屋敷に跡取りさんとして生まれた正真正銘の御曹司です。
お母様は亡くなってて、お父様はいるけど屋敷に戻るのは数年に一度くらいのもので。
何だか微妙にエルはお父様と確執があるらしいです。この辺はいつか書きたいです。

竜崎は10年程前にワイミーズハウスから連れて来られました。
連れてきたのはエルのお父様で、何を考えたのかこの孤児の竜崎をいきなり養子として迎えると言い出しました。
初めのうちは、あまり気に入らないお父様が連れてきた竜崎のことを素直に受け入れられなかったエルですが、
竜崎と同い年で、近くに住んでてその時からよく遊びに来ていたヒロインが間を取り持ってくれたこともあり、
兄として接することができるようになりました。ああ、この辺も書きたい・・・。

その頃にはイギリスの名門大学を首席で卒業した明晰なエルは、あるつてによって私立探偵Lとして活動を開始。
竜崎は、いつも遊びに来るヒロインに追い回されながらも、兄のそんな活動をじっと見ていました。
そして竜崎がやってきて3、4年程経った頃。
幼くてもあまりにも熱心に見ているので、エルが簡単なデータ処理等を教えてみるとすぐにマスターし、
さらに自分で情報の応用も始めていました。
エルの持っている難解な本や資料にも興味を持ち、自分なりに考えを展開させたりもして。
その年の子供にしてはあまりにも卓越し過ぎていて、試しにIQテストを受けさせてみると200を余裕で越えていて。

竜崎が10歳になった頃、エルは彼と私立探偵Lを名乗り始めました。



・・・・・・って、裏設定多すぎ!
こんなの考えてる間に早く次の作品考えなきゃですね!