:ある男性の、ある女の子分析―――有能執事ワタリ編(第一章時)







私も長い人生を歩んできたつもりですが、

あの時は、偶然の恐ろしさを改めて再確認させられたものです。




私の主人、竜崎が手がけていた連続婦女惨殺事件。

イギリスにいる竜崎の代わりに、私は日本の捜査本部に出向いていました。

捜査状況を彼に伝え、パソコン越しに彼の声を捜査本部へと届ける役目を仰せつかっていたのです。



ただ、本部で行われている捜査は、犯人かもしれない警察関係者の目を欺く為のもの。

本当の捜査は、竜崎が打診したという覆面の私立探偵に依頼している。




あの竜崎が、顔も名前も伏せられている人物を採用するなんて、と

ほんの少しだけ浮かんだ疑問はすぐに取り払いました。

どんな行動を起こそうとも、執事である私はただ黙って彼の方針に従うのみ。




さて、あの日。

私は、様子のおかしかった容疑者の一人を尾行していたのですが。

離れたところで、同じく尾行しているらしい一人の少女を見つけました。


帽子を深く被り、真剣な眼差しで容疑者を見つめているまだ高校生くらいの年頃の少女。



彼女に見覚えはありました。

初めは、竜崎が採用した私立探偵へ渡す報告書を保管している郵便局で。

その次は、ある事件の容疑者の周りを張り込んでいた時。



目鼻立ちがはっきりしていて、

日本人にしては明るめの髪と、明るい瞳をしていたからよく印象に残っています。



もしかしたら、彼女が・・・?



竜崎から、例の私立探偵は女性だということは聞いていましたが。

こんなに若い少女だなんて、誰が想像できたでしょう?



やがて彼女はすぐにその場を去りました。

容疑者たちの決定的な接触を確認したからでしょう。


今度は私は彼女の後を追いました。




彼女が入ったのは街の片隅にある小さな喫茶店。



少しの時間をおいて私も店に入ると、彼女は古いピアノの前で楽しそうに曲を奏でていて。

素直な笑顔でおいしそうにケーキを頬張る姿は本当に微笑ましいものでした。




彼女が店を出てからマスターに訊ねてみると、彼女はその店の常連だとか。




竜崎に信用してはもらえないだろうと思いつつも、私は彼に連絡を入れました。

例の私立探偵と接触した、と。