:ある男性の、ある女の子分析―――私立探偵L編(第一章時)
初めて彼女の存在を知ったのは・・・警察庁の噂からでしたね。
日本警察が手を焼く事件に必ずアドバイスを残す、謎の存在。
わかっているのは、日本に在住で都内の人物だということくらい。
まるで私のようなスタンスで事件に臨んでいる、ということで少し興味を持ちました。
男性か女性かもわからないけれど、見事に的確なポイントをつく推理。
謎の人物の推理の過程を追う為、
警察庁のデータベースに残されている、かの人物が関わった事件の報告書を手に入れてみました。
・・・なかなか興味深い観点に目をつけ、鋭い洞察力で決定的なアドバイスを残している。
・・・この人物なら、私の期待に応えられる調査をしてくれるかもしれない。
その時抱えていた事件の捜査を有能な人物に委ねる必要があったけれど、
その人材の選別に正直困っていたところだったんです。
・・・直感で動くのは、本当は好みではないが。
この人物は信頼できそうだと。
この時ばかりは何故かそう思えました。
力量を量る為に不躾なメールを送り、私が出題した暗号も見事に解いてくれた。
そして初めてのコンタクト。
私の問いに返ってきた言葉は、落ち着いた女性のものだった。
男性であろうと女性であろうと構わないつもりだったが、それは意外だったんです。
私の期待を裏切らない調査を確実にこなしていく彼女を、狭い日本に置いておくのは惜しい気もしました。
見事なフットワークで事件の証拠を掴んでくれ、事件はあっさり解決に繋がりました。
叶うならば会ってみたいとすら思いました。
しかし、運命とは不思議なもので。
その何気ない私の望みがまさか叶うことになるなんて、思ってもみませんでした。
事件を解決し、いい天気にひかれて出てみたハイド・パークにて。
やや明るめの髪を太陽の光に反射させて私に近づいてきたのは日本人の少女でした。
色素の薄い明るいブラウンの瞳がとても綺麗な、少女。
・・・先日、日本の捜査本部から私に情報を送っていたワタリから気になる報告は受けてはいました。
その日、事件の容疑者を尾行していた時に同じく容疑者をつけていたような女の子。
それは、事件の報告書を保管していた郵便局や、事件関係者の周りをうろついていた少女に間違いなかったと。
もしかしたら、彼女が例の私立探偵かもしれない、という報告を。
その時はまさか、と思いましたよ。
私の足として優秀な調査を行ってくれたのが、まさか10代の少女だったなんて。
・・・だが、あの日ハイド・パークで出逢った彼女。
つい前日までパソコン越しで会話を交わしていて声も覚えているから外れるわけがない。
機械越しよりもやや高めの声だったけれど、それは彼女の声質に間違いはなかったんです。
彼女は私に気がついてはいなかったようでしたが。
パソコンを通じて会話していたイメージとは全く異なる、元気な女の子でした。
明らかに妙な私を見ても全く意に介せず、笑いかけてくれた彼女。
それは、ロンドンの重い空気を払う光を思わせるようで。
久しぶりに、会話してよかったと思えるような人物と知り合えました。
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