私の大切な人たち。


幸せになってほしい、大好きな人たち。







これからも、仲良くしてね!














ある女の子による、あるカップル分析―――2003年6月


















休日のニューヨーク、マンハッタン。



世界的な大都市だから、休日だといろんな人種の人たちが入り乱れて結構大変。

キャップを押さえながらビルディングを見上げてみると切り取られたスカイブルーが広がってる。





とってもいい天気。買い物日和だわ。




ふふっと口許を綻ばせた。





待ち合わせの、若者向けブランドショップのウィンドウにもたれかかって時間を確認する・・・、

あれ?ちょっと遅い・・・なぁ、二人とも。

いつもは遅刻なんてしないはずなのに、何してるんだろ?




首を傾げながらふぅっと溜め息をつき、行き交う人たちの波に視線を泳がせる。

今日は、レイとナオミさんと一緒に買い物に連れて行ってもらう予定。




せっかくの休日デート、邪魔しちゃ悪いんじゃないかと思って遠慮したんだけど・・・、

是非一緒に行きたいとレイが言ってくれたから。

そう言ってもらえたら、私だって是非一緒に遊んでもらいたい。

二人のことは、思わず甘えたくなる大好きなお兄さんやお姉さんみたいに思っているし。




・・・・・・あ。




「レイ!ナオミさん!こっちこっち!」




人込みの中に現れた、背の高い二人組の男女を見つけて私は手を振りながら声を上げる。

声に気づいたのか、二人とも揃ってサングラスを額に上げて私の姿を見つけたみたい。



少し慌てたような笑顔で小走りにやってきた。




「お待たせ、


「ちょっと遅れちゃったわね。ごめんなさい、待った?」


「んー、ちょっとだけ」




ぺろっと舌を出して、寄りかかっていたウィンドウからぐいっと体を起こした。

少しだけ勢いがあってよろけそうになったけど、つま先で踏ん張って。




「あら、ちゃん、今日は結構ボーイッシュなのね。珍しい」




軽く吹き出てる汗をハンカチで押さえながら、ナオミさんは私にそう言った。



今日の私は黒いTシャツにダークネイビーの大きめハーフパンツ。

マークの行き着けのストリートショップで見つけた黒いキャップをかぶり直して軽く腕組みした。




「あんまり今まで挑戦したことのない新境地ですけどねー。

ってか・・・、ナオミさんってそんなカジュアルなカッコも似合うんですね〜・・・羨ましい」


「そう?・・・いい年してそろそろまずいんじゃないかと思うけど」


「何言ってるんですか、まだ20代なのに」




まるで水着みたいなノースリーブの薄いトップスにすごく細いジーンズ姿のナオミさん。

太陽の光を眩しく反射する白い胸元と細長くて白い腕に思わず目を奪われてしまう。




・・・・・・ナオミさん、こんなに背が高くってこんなにナイスバディなのに、


この前ひっそりと聞いてみた体重は私とあまり変わらないって・・・な、何だかなぁ・・・・・・。





「どうした?遅れたから怒ってるのか?」




内心で思ったことが顔に出てしまったみたい、レイが首を傾げて私を見下ろしてきた。

・・・本心を言うつもりなんてないから、つんとすました表情を作ってそっぽを向いて見せる。




「そんなことないもん。

あー、久しぶりに見るけどレイの普段着ってやっぱり何かヘンな感じー」




レイは涼しげな白シャツ姿。

ボタンを2つくらい開けたところにゴールドのクロスネックレスが煌めいてる。


・・・・・・ヘンな感じだなんて可愛くないこと言ったけど・・・、

よくよく見てみるとすっごく似合って素敵だと思う。



ごめんね、レイ。訂正します。




「やっぱり怒ってる?ごめんね、ちゃん。

出がけに私がちょっとモタついたせいなの」




・・・こっちが申し訳なくなるくらいに、申し訳なさそうな顔をしてるナオミさん。




「冗談冗談。怒ってないってば。

二人とも、行こう!」




心からの笑顔を向けると、二人は安心したように笑ってくれる。






大好きな二人だもの。

笑いあって楽しく過ごしたいじゃない?




























「だけど、あっついなーーー・・・・・・、」


「30℃を余裕で越えるって、予報で言ってたものね・・・」




キャップを脱ぎ、ぱたぱたとあまり意味のない風を送りながらぼやいた。

ウォール街のいろんなショップのウィンドウを横目に見ながら、ブロードウェイストリートを通り抜け、

三人で何となくたどり着いたのはバッテリー・パーク。



いい天気だから、海の向こうの女神さまがはっきりと見える。

私の部屋から遠く見る女神さまとは違って、こっちは真正面からだから眺めは断然最高だけど。




「あそこでアイス売ってるな。ナオミ、、アイス食べるかい?奢るよ」




レイが指差したのは、白いパラソルを差しているアイスクリームワゴン。

ワゴンについてる人から嬉しそうにアイスを受け取った小さな男の子が、若い男女と立ち去るところだった。




「うん食べるー!あ、待ってレイ。

私、カメラ持ってきたの!先に写真撮っちゃおうよ」




ワゴンのところへ行こうとしたレイを呼び止めて、

大したものなんて入ってないバッグの中から小さなデジカメを取り出した。




「僕が撮ってあげようか?」




さすが、いつでもレディファーストで紳士的なレイ。




「あー、待ってまず、二人のツーショット撮ってあげる!」


「い、いいわよ別に。ちゃん、レイと二人で写真撮る?」


「何言ってるんですかもう。ほらナオミさん、早く!」




照れたのか、カメラを受け取ろうと手を伸ばしてきたナオミさんをレイの方へと押し返す。

戸惑いつつも苦笑いしながら、パークの緑をバックにレイとナオミさんは直立不動でそこに並んだ。



まぁ、それはそれでいいんだけど・・・、




「・・・・・・うーん、もうちょっとくっついたらいいのに」




ぼそっと呟いてみた。



何か、レイってばナオミさんを追い回してたあの頃より、付き合ってる今の方が断然大人しい気がするんだよね。



これが本来あるべき落ち着いた恋人たちの図・・・なんだろうけど、さ。

ヘンな感じがするのはどうしてかな。



・・・あの頃、相当衝撃的だったもんね・・・当時の私、開いた口が塞がらなかったし。




「・・・・・・そうね、たまにはいいかしらね」


「ナオミ?」




いきなり小声で呟いて一つだけ深呼吸して。



ナオミさん、細い両腕をレイの首にまわしてこちらを向いた。

・・・・・・それは間違いなく恋人同士の構図。



あ、レイ、何が起きたのか一瞬理解できないでいるみたい。

ぽかんと目を見開いた間抜けな顔。




「うわ、ねぇナオミさん、どうしちゃったの?」




まさか、こんな構図見せてもらえるなんて思ってなかったから私も驚いた。

笑顔を見せてくれたナオミさんに私も笑いかけ、カメラのシャッターを切ろうとした・・・、



けど。




「ナオミ・・・!やっと積極的になっ、」




どすっっ




「うわ」


「・・・っっ!!ひ、久しぶり、だな、この痛さ・・・・・・、、、」




シャッターボタンにかかった指が硬直して止まってしまった。



レイが、抱きついてるナオミさんを抱きしめ返そうとした瞬間、すごい鈍い音がした。

・・・・・・見れば、ナオミさんの左手がレイの腹部に深々と埋まってる・・・・・・。

思い切り突かれた鳩尾を押さえ、レイは目に涙を浮かべてる。


ナオミさん、そこって急所だし・・・それ、痛いんじゃないかなぁ・・・・・・。




「調子に乗らないの、レイ。

ちゃん、早く撮っちゃって」


「あ、は、はい!

じゃいくよー!レイ!涙拭って、引きつった顔してないで、ちゃんと笑ってー」




再びレイの首に腕をまわして微笑んだナオミさんに一瞬だけ唖然としたけど、すぐに我にかえる。

レイの表情が整ったところで、改めてカメラを構えタイミングを外さずにシャッターを切った。





ぱしゃっ





「撮ーれたっ!うわ、すごく綺麗。

プリントして二人にあげるね」




今、撮った写真を液晶画面に呼び出してみて、そのナイスショットに自分で満足する。

パークの緑と木漏れ日が綺麗に調和して、構図も文句なし。




「本当に?見せてくれるかい、・・・、

ああ、本当に綺麗だ!さすが僕のナオミ!」


「も、もううるさいわよレイ、あんまり騒がないで!

すぐ調子に乗るんだから!」




こっちに来て液晶画面を覗き込んできた二人は大声をあげて騒ぎ始める。

パークを散策してる人が何事かと視線を投げるけど、それも意に介してないみたいで。


・・・・・・この感覚・・・、ああ、何か懐かしいなぁ・・・、


何ヶ月か前くらい、こんな風に騒ぐ二人を呆れたような顔で傍観してた頃を思い出し、私は軽く苦笑いした。



すると。




、現像代は出すからとりあえず僕に20枚ほどプリントしてくれるかな?」


「え!?に、20枚!?・・・え、そんなに何に使うのよレイ・・・・・・?」




とんでもない枚数を聞き返してみると、レイは至って真面目な顔。


・・・・・・あ、その用途、今なぁんか想像できちゃったからあんまり聞きたくないぞ・・・?




「定期入れに忍ばせる携帯用と家とオフィスの写真立て用とアルバム用と・・・、

あと、同僚たちに配る用と・・・ぐふっっ!!




・・・・・・・・・使用用途、やっぱりそうきたか。



軽く溜め息をついて少しだけ呆れた表情でレイを見下ろした。



レイの言葉を遮ったのは勿論、ナオミさんのボディブロー。

今度はさっきよりもダメージ大きかったらしく、レイってばその場に蹲っちゃった。




「私とレイの2枚分だけでいいからね、ちゃん・・・!!」


「何だ、レイ・・・少しは大人しくなったかと思ったら全然変わってなかったんだ・・・・・・、

やっぱり、ここ最近の大人しめなレイの方がいいかもしれませんね、ナオミさん」




やや乾いた笑いでそう言いながら、私はもう一度さっきの画面に目を落とした。





液晶画面に写ったツーショット。

幸せな美男美女カップル。

・・・現実のこの二人の関係は・・・、綺麗に残る写真のように、とは言わないのかもしれないけど。






でもちょっと羨ましいよね。


想い合ってるある特定の人と一緒にいられるのは本当に嬉しいことでしょう?













私にも、そんな時がいつか来るのかなぁ・・・。





















ちょっぴり補足。


2巻の『page10.合流』で、ナオミさんがバスの運転手さんに見せたラブラブツーショット。
あの写真、実はヒロインが撮りました、という勝手な捏造です。
レイのプロポーズ(2003年7月4日)
の直前くらいのエピソードだと思っていただければ(^^;)